こんにちは
以前別の記事で森林所有者を困らせる動物について書きました。
気になる方はこちらから→獣害とは?森林経営者にとっての天敵シカ・クマ・ネズミについて
しかし、森林所有者を困らせるのは動物だけではありません。
虫による被害も大きいです。
森林所有者を困らせる害虫と言われてすぐに思いつく方、あまりいないと思います。
今回は日本で起きている虫害被害の内、代表的な虫害を3つ紹介していきます。
1匹目は防風林や条件の厳しいところでも成長する松を枯らす松食い虫は令和元年度の被害は30万㎥にもなりました。
この松食い虫とはマツノマダラカミキリを指します。
目次
松食い虫
マツノマダラカミキリ
マツノマダラカミキリは体長10〜18mm程の焦げ茶色のカミキリムシで本州(北限は青森県)四国、九州などに分布しています。
弱った松の樹皮に噛み跡をつけ卵を1つずつ生みつけます。
卵から孵った幼虫は松の幹や枝の部分に入り柔らかい形成層の部分を食べて成長します。
5〜7月頃にサナギから成長した成虫が松の内側から穴を開けて出ていきます。
実は、ただマツノマダラカミキリが卵を産んで幼虫が形成層を食べても松が枯れることはほとんどありません。
「最初の方に枯れて30万㎥も被害が出るっていってなかった?」と思った方、鋭いです。
正確にいうと松が枯れる原因となっているのはマツノマダラカミキリが媒介となっているマツノザイセンチュウです。
マツノザイセンチュウ
マツノザイセンチュウは体長1mm程の線虫で、もともと日本にはおらず、北アメリカから輸入された松にいたのが日本全国に広がりました。
マツノザイセンチュウが松に入り増殖すると水の通り道である木部を詰まらせてしまうため松が弱り、最終的に枯れてしまいます。
その松にマツノマダラカミキリが卵を生みつけます。
すると、マツノザイセンチュウが入った松で成長したマツノマダラカミキリは体内にマツノザイセンチュウを潜伏させ、餌となる健康的な松の樹皮を食べに行きます。
マツノマダラカミキリがつけた咬み傷からマツノザイセンチュは侵入し増殖して松を弱らせます。
このループによって日本の松は甚大な被害を受けています。
被害
初めの方にも言いましたがマツノザイセンチュウによる松の被害は令和元年度だけで約30万m3になっています。
「30万m3ってどれくらいか想像もできない」と思います。
一戸建ての木造建築の家に使われている木材は約24㎥です。
つまり、12500棟分の木材量が枯れてしまっています。
特に松が多く生えている長野県では平成30年の松食い虫による被害材積は7万㎥以上です。
原産国の北アメリカに生息する松はマツノザイセンチュウに対する抵抗力があるのに対し、アジア・ヨーロッパに生息する松には抵抗力がないため世界各国で問題となっており、EUや中国は輸入時に消毒を義務付けています。
森林所有者もやられてばかりではありません。
ここからは対策についてお話ししていきます。
対策
マツノザイセンチュウへの対策としては枯死した松は伐採し、薬品による燻蒸処理もしくは破砕・焼却処理を行います。
薬品による燻蒸作業は、ある程度の大きさにカットしたらシートを被せ薬品を入れて隙間がないよう端を塞いでいきます。
この処理作業は松が生えているエリアが山の上部までシートのロール(5kg)を担いで上がるのと、薬品の匂いが硫黄(腐った卵)の匂いがするので僕は結構キツかったです。
健康的もしくはそこまで弱っていない松には樹幹注入剤を入れることでマツノザイセンチュウの増加を防ぎます。
松食い虫の次に被害が大きい虫害はナラ枯れです。
ナラ枯れ
ナラ枯れはカシノナガキクイムシが媒介しているナラ菌(ラファエレア・クエルキボーラ)によって起こされます。
カシノナガキクイムシ
カシノナガキクイムシは体長5mm程で本州、四国、九州に分布しており大径木に穴を開けて生息します。
本州では日本海側で被害が多く確認されています。
年輪に沿って掘っていき複雑な孔道を作ります。また、アンブロシア菌という共生菌を栽培して子供を育てるといった特徴があります。
カシノナガキクイムシは様々な樹種に生息しているため枯れたナラにも生息します。
その時にカシノナガキクイムシの体内にナラ菌が入ります。
成長したカシノナガキクイムシは健康的な木に向かっていきます。
健康的な木に穴を開け生活します。
この時、カシノナガキクイムシの体内からナラ菌が出て木が感染します。
ナラ菌に侵入された植物は防御反応として管類をセルロースで塞ぎ拡大を抑えようとします。
この防御反応が導管を詰まらせてしまい水が吸収できなくなる通水障害が起きて枯死すると考えられています。
実はナラ菌が少し入った程度じゃ枯死しません。
「ならなぜ被害は甚大なの?」
ナラ菌が少し入った程度では通水障害は起きませんが大量にナラ菌がいると枯死してしまいます。
カシノナガキクイムシは羽化して新しい木に入るとフェロモンで仲間を集める習性があり、この習性がナラ菌の病原性を強めるという考えもあります。
被害
令和元年度のナラ枯れの被害材積は6万㎥です。
ナラ枯れは6〜8月の木が一番水を吸い上げる時期に発見しやすく葉の色が茶色くなっています。
そのため、景観への被害が甚大です。
対策
松食い虫同様に枯れている木に関しては伐採後に燻蒸処理もしくは破砕・焼却を行います。
健康的な木にはカシノナガキクイムシの侵入を防ぐビニールシートを巻きつけたり、樹幹注入剤でナラ菌や酵母菌(カシノナガキクイムシの食料)を殺菌してナラ菌とカシノナガキクイムシの繁殖を抑制します。
ここまで日本の森林所有者を困らせてきたのはマツノマダラカミキリとカシノナガキクイムシの2種類でした。
この2種類は木を枯らせる原因となるものを運搬、媒介してしまうため影響範囲が広大で木材の影響が甚大でした。
しかし2012年に愛知県でクビアカツヤカミキリという外来種が発見されました。
クビアカツヤカミキリ
このクビアカツヤカミキリは特定外来生物に指定されており中国、モンゴル、ロシアなどに分布しています。
日本では10都道府県で発見されており、更なる拡大を恐れられています。
体長が22〜35mm程で体が艶のある黒色で首が赤くなっているのが特徴です。
このクビアカツヤカミキリは桜、モモ、梅などのバラ科の植物に卵を生みつけます。
卵から孵った幼虫は樹木の内部で2年程過ごします。
幼虫は樹木内部を食い荒らすため木が弱り枯死してしまいます。
特に街路樹や公園、土手に植えられているソメイヨシノへの被害が大きく拡大防止のため伐採が行われています。
クビアカツヤカミキリは1匹のメスが100〜300個もの卵を産むため繁殖力が非常に高く、
日本全土に蔓延したらお花見ができなくなってしまうかもしれません。
対策
クビアカツヤカミキリの対策は既に入っている樹木を伐採し焼却する方法が一番多く取られている方法で、
他には防除剤や駆除剤が撒かれたり、産卵管を通せないネットも開発されていますが効果はまだわかっていません。
最後に
いかがだったでしょうか?
森林所有者を困らせる虫について代表的なものを少しだけ書かせていただきました。
動物(シカ、クマなど)とは違い、小さく、飛ぶこともできるのでかなり厄介ですよね。
年々減少傾向にはあります。一方でクビアカツヤカミキリのような外来生物が日本に入ってきています。
木の下にフラス(幼虫の糞と木屑が混じったもの)が書いた3つの虫害の目印です。
見つけたら関係ないからと放置するのではなく環境省のチラシに書いてある電話番号に連絡してください。
気になる点、質問ございましたら気軽にFacebook株式会社アーボプラスにコメント下さい。
最後まで読んでいただきありがとうございました。